大阪高等裁判所 平成11年(ネ)2502号 判決
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文同旨。
第二当事者の主張
一 原判決の引用、補正
1 引用
当事者双方の主張は、次の二、三のとおり附加するほかは、原判決の「第二 事案の概要」欄(三頁一行目から一三頁七行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 補正
ただし、次のとおり補正する。
(一) 原判決四頁九行目、同六頁二行目の各「これを行使しない」の次に、いずれも、「、被控訴人の請求があれば、その権利又は順位を被控訴人に無償で譲渡する」を加える。
(二) 同七頁末行目の「訴外今井田は、」の次に「破産宣告後、」を加える。
(三) 同頁末行目、同八頁一行目の「破産宣告後の平成一〇年六月一日ころ、」を削る。
(四) 同八頁七行目の「担保不動産を任意売却し、破産宣告後に」を「破産宣告後に、担保不動産を任意売却し」と改める。
二 控訴人の当審附加主張
1 物上保証人の責任は、特定の財産(担保目的物)をもってする特別責任である。他方、連帯保証人の責任は、一般責任財産をもってする責任である。この連帯保証債権でもって、特別責任を負担している担保目的物から回収することはできない。
もし、本件不動産の売却金からの弁済が連帯保証人としての弁済であれば、全債権者が平等に売却金の弁済を受けた筈である。しかし、本件不動産の売却金からの弁済は、本件不動産に設定されていた担保権の順位、被担保債権額を基準としており、全債権者が平等に弁済を受けたものではない。右弁済は、物上保証人としての弁済であって、連帯保証人としての弁済ではない。
2 訴外今井田が、本件不動産の売却、売却金による弁済の直後に、破産宣告を受けた場合を想定してみよう。連帯保証人としての弁済ということになれば、訴外今井田の破産管財人は、本件不動産の売却、売却金による弁済につき、否認権の対象として調査する筈である。そのような場合でも、被控訴人は、これに対し、連帯保証人からの弁済と主張するであろうか。その場合には、物上保証人からの弁済と主張する筈である。
この点においても、本件は、物上保証人としての弁済であって、連帯保証人としての弁済ではない。
3 次に、訴外今井田が本件不動産を所有したままで破産宣告を受けた場合を想定する。被控訴人は、別除権(本件不動産の根抵当権)を有するとともに、破産債権(連帯保証債権)を有する。破産債権(連帯保証債権)は、破産手続を通じてしか弁済を受けられない権利であり、別除権の対象となっている本件不動産からの回収は不可能である。
連帯保証人から、本件不動産(別除権の対象物件)の売却金から弁済を受けるということは、理論的に成り立たない。
三 被控訴人の認否、反論
1 控訴人の前示二の主張を争う。
2 物上保証人からの一部弁済についても、破産法二四条の準用を認めるのが通説である。被控訴人が訴外今井田から被担保債権(貸金債権)の全額の弁済を受けていない以上、物上保証人兼連帯保証人への破産法二四条の適否を論ずるまでもなく、破産宣告時における被担保債権(貸金債権)の全額を破産債権として行使できる。
理由
第一判断の大要
当裁判所は、大要以下のとおり判断する。その理由については、次の第二、第三で説示する。
一 事実の要旨
1 破産会社は平成九年一二月一〇日破産宣告を受け、控訴人がその破産管財人に選任された。被控訴人は、右破産宣告当時、破産会社に対し、九五一九万五六二九円の貸金債権(破産債権)を有していた。
2 訴外今井田は破産会社の代表取締役であり、破産会社の貸金債務九五一九万五六二九円についての物上保証人兼連帯保証人であった。被控訴人は、訴外今井田所有の本件不動産上に、根抵当権設定登記を了していた。訴外今井田は、本件根抵当権設定契約書、連帯保証契約書の中で、被控訴人に対し、弁済等による代位権を放棄することを約していた。
3 被控訴人は、本件貸金債権九五一九万五六二九円について、破産債権の届出をした。訴外今井田は、前示破産宣告後、本件不動産を任意売却し、その売却代金の中から二一五七万〇三七一円を被控訴人に一部弁済した。控訴人は、被控訴人の届出債権九五一九万五六二九円中、右一部弁済金二一五七万〇三七一円について異議を述べた。
二 争点
本件の争点は、物上保証人兼連帯保証人が、主たる債務者の破産宣告後に、債権者に対し担保不動産の売却代金から一部弁済をした場合に、破産債権者は、破産宣告時に現存した債権額全額につき破産債権の届出行使ができるかにある。
三 判断の要旨
1 破産法二四条適用の検討
物上保証人兼連帯保証人が、主たる債務者の破産宣告後に担保不動産を任意売却し、債権者に対して右売却金の中から債務の一部を弁済した場合も、破産法二四条の適用があり、債権者が破産手続上行使できる債権額は破産宣告時に現存した債権額全額であり、これから右一部弁済額を控除した残額ではない。
したがって、本件でも、被控訴人は、本件貸金債権九五一九万五六二九円全額について、破産手続上の権利行使(破産債権の届出)ができ、訴外今井田からの一部弁済金二一五七万〇三七一円を減額する必要はない。
2 代位権放棄特約の検討
訴外今井田は、被控訴人との間の根抵当権設定契約、連帯保証契約で、代位権放棄の特約をしている。この特約は有効であって、この特約からも、訴外今井田は一部弁済金二一五七万〇三七一円の求償権について、破産手続上も権利行使(破産債権の届出)ができず、被控訴人がこの二一五七万〇三七一円についての権利行使ができることが明らかである。
したがって、この点からも、被控訴人は、本件貸金債権九五一九万五六二九円全額について、破産手続上の権利行使(破産債権の届出)ができ、訴外今井田からの一部弁済金二一五七万〇三七一円を控除する必要はない。
四 結論
前示三1、2の理由により、被控訴人の届出債権に対する控訴人の異議は理由がなく、被控訴人の本件破産債権確定請求は理由があるので、これを認容すべきである。原判決も、前示三1の理由(破産法二四条の適用)から、被控訴人の本件破産債権確定請求は理由があると判断しており、相当である。
第二前提事実
原判決第二の一(三頁二行目から八頁五行目まで、但し前示補正後のもの)記載のとおりであるから、これを引用する。
第三争点に対する判断
一 はじめに
被控訴人は、破産会社の破産宣告後に、物上保証人兼連帯保証人である訴外今井田から、本件不動産の任意売却金の中から二一五七万〇三七一円の一部弁済を受けている。
しかし、被控訴人は、破産法二四条に基づき、破産宣告時に現存した破産会社に対する貸金債権九五一九万五六二九円全額について、破産債権者としての権利行使(破産債権の届出)ができる。その理由は、以下のとおりである。
二 一部弁済を受けた破産債権者の権利行使の範囲
1 連帯保証人から一部弁済を受けた場合
破産法二四条によれば、数人の全部義務者の全員又は一部の者が破産宣告を受けたときは、債権者は、破産宣告の時に有した債権の全額について、破産財団に対して破産債権者としての権利を行うことができる。
それ故、破産宣告当時の債権全額を破産債権として届け出た債権者は、破産宣告後に全部義務者から債権の一部の弁済を受けても、届出債権全額の弁済を受けない限り、なお右債権の全額について破産債権者としての権利を行使することができる(最判昭和六二・六・二民集四一巻四号七六九頁)。
2 物上保証人から一部弁済を受けた場合
破産債権者が物上保証人から一部弁済を受けた場合には、物上保証人は、破産法二六条三項、二項により、弁済の割合に応じて債権者の権利を取得し、破産債権者としての権利を行使することができる。
その結果、債権者の権利はその限度で物上保証人に移転するから、届出債権全額から一部弁済額を控除した残額についてのみ、破産債権者としての権利を行使することができるのである。けだし、物上保証人は、もともと担保物の価額の限度において責任を負うにすぎず、債権全部の支払義務を負っているものとはいえないからである。
3 連帯保証人と物上保証人がある場合の一部弁済
(一) 連帯保証人と物上保証人が別人である場合
この場合には、債権者は、連帯保証人から一部弁済を受けた場合でも、前示1のとおり、債権全額につき破産債権者としての権利を行使することができる。
次に、債権者が物上保証人から一部弁済を受けた場合には、債権者は、物上保証人の求償権による破産法二六条三項、二項の破産債権者としての権利行使を妨げることができないから、前示2のとおり、一部弁済額を控除した残額に破産債権が減額される。
(二) 連帯保証人と物上保証人が同一人である場合
連帯保証人と物上保証人が同一人である場合、すなわち、本件のように物上保証人兼連帯保証人が一部弁済をしたときの法律関係は、右(一)の場合と同一には論じられない。
この場合、一部弁済が、担保物件の担保権実行による配当金からの弁済か、それとも担保物件の任意売却による売却代金からの弁済か、その他の一般財産からの弁済か、或いは、その弁済が連帯保証債務の弁済という形式をとったか否かによって区別することは、特段の事情がない限り相当でない。そのいずれの場合であっても、物上保証人兼連帯保証人は、連帯保証人としての全部支払義務を負う地位に変動がない。債権者は、前示1のとおり、届出債権全額の弁済を受けない限り、なお、右債権全額につき破産債権者としての権利行使をすることができると考える。
この場合でも、債権の一部を弁済した連帯保証人(兼物上保証人)が、直ちに届出債権額に対する弁済額の割合に応じて債権者の権利を取得するものとすれば、連帯保証人の全部支払義務を不当に免れることになり、許されない。このように、もしこれを認めると、債権者が届出債権全額の満足を得られない場合でも、残債権につき履行義務のある連帯保証人が、物上保証人の地位を兼ねていることを理由に、前示求償権を行使し、破産債権者としての権利を行使しうることになる。それでは、破産債権者が、それに対応する権利を失うことになり、破産債権者としての権利を害されることになる。このような結論は是認できない。
したがって、物上保証人兼連帯保証人が物上保証の履行として一部弁済をした場合でも、連帯保証人としての地位から求償権行使の制限を受け、その破産債権者としての権利行使は制限されると解すべきである。この場合、破産法二六条三項、二項の規定は、物上保証人兼連帯保証人からの一部弁済及び破産財団からの配当により、届出債権全部を満足させてなお余剰を生じた場合に、右余剰部分について、その弁済額の割合に応じて債権者の権利を取得することができることを定めたものというべきである。
けだし、債権者は、債権担保の強化のため、連帯保証と物上保証の人的担保及び物的担保を二重に取得することができる。その場合、債権者は、そのいずれを行使することもできるし、全額の弁済を受けない限り、その一方の行使により、他方の担保権者としての破産法上の地位が減少したり喪失するものではない。もし、そのようなことを許すとすれば、債権者が、二重の担保権を取得したことにより、かえって不利益を受けるという不合理な結果となるからである。
三 代位権放棄の特約の検討
1 物上保証人兼連帯保証人である訴外今井田は、被控訴人との間の根抵当権設定契約、連帯保証契約の中で、代位権放棄の特約をしている(前示第二の原判決の引用、補正による認定事実)。
もともと、訴外今井田は、前示のとおり連帯保証人としての地位も兼ねているので、弁済者代位権による求償権の行使が制約される立場にある。したがって、前示代位権放棄の特約は、右法定代位権の制限を約したもので、これを無効ということはできない。
訴外今井田は、被控訴人に対し、本件不動産の任意売却金の中から二一五七万〇三七一円の一部弁済をしている。しかし、代位権放棄の特約が有効であり、代位権行使について被控訴人の同意がない以上、訴外今井田は、破産財団に対し、求償債権二一五七万〇三七一円について権利行使(破産債権の届出)を行う余地がない。
2 もし、本件で、被控訴人が破産手続上行使できる債権額は、破産宣告時に現存した債権額九五一九万五六二八円から一部弁済を受けた二一五七万〇三七一円を控除した残額であるとすると、右一部弁済金二一五七万〇三七一円については、被控訴人も訴外今井田も破産手続上の権利行使(破産債権の届出)ができなくなる。
結局、本件は、右一部弁済金二一五七万〇三七一円について、破産手続上の権利行使ができるのは、被控訴人かそれとも訴外今井田かの問題に集約できる。両名ともに一部弁済金について破産手続上の権利行使ができず、二一五七万〇三七一円に対応する配当は他の破産債権者が取得するというのはおかしい。
そして、訴外今井田は現に権利行使をしていない(弁論の全趣旨によると、訴外今井田からの債権届出はない)。そうである以上、本件では、一部弁済金二一五七万〇三七一円について権利行使ができるのは、被控訴人のほかにはいないのである。
四 控訴人の当審附加主張の検討
1 破産法二四条には同法二六条三項のような準用規定がないから、控訴人主張のように、物上保証人には破産法二四条の適用はない。この点は前示二2のとおりである。
2 しかし、訴外今井田は単なる物上保証人ではなく、連帯保証人を兼ねている。訴外今井田は、被控訴人に対し連帯保証債務を負担しているのであるから、破産法二四条にいう「数人カ各自全部ノ履行ヲ為ス義務ヲ負ウ場合」に該当する。
破産法二四条は、一つの責任財産の不足による危険を分散しようという民法四四一条の趣旨を、破産手続においても貫徹しようとするものであり、債権者保護の立場から設けられた規定である。
3 控訴人の当審附加主張は、要するに、訴外今井田からの一部弁済金の受領は、実質的には担保権実行による配当金の受領と同旨すべきであり、破産法二四条の適用はないというものである。
しかし、訴外今井田は連帯保証人を兼ねており、連帯保証債務を全額履行していないのであるから、連帯保証人でもある訴外今井田が、物上保証人としての一部弁済金について求償権行使の制約を受けることは、前示二3(二)で説示したとおりである。
4 したがって、控訴人の当審附加主張は採用できない。
五 原判決の引用
1 以上のほか、原判決一三頁八行目から一九頁七行目までを引用する。
2 ただし、原判決一九頁五行目の「任意売却代金」を「売却代金」と改める。
第四結論
以上によると、被控訴人の破産債権の届出に対する控訴人の異議の申出は理由がなく、被控訴人の本件破産債権確定請求は理由があるので、これを認容すべきである。よって、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないので棄却し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 吉川義春 裁判官 小田耕治 裁判官 紙浦健二)